コールセンターのテレワークが普及しない本当の理由

テレワーク

2020年、世界規模での新型コロナウィルスの感染拡大によって、世の中が大きく変わり始めました。あらゆる業界でデジタルとリモートへの対応が加速する中、コールセンター業界ではそれまで難しいと言われてきた「コールセンターのテレワーク化(在宅コールセンター)」が徐々に浸透しつつあります。実は、もう10年以上も前からコールセンター事業者は「コールセンターのテレワーク化」を提案してきましたが、顧客企業に受け入れられることはなく、普及することはありませんでした。

そのコールセンターのテレワークが、新型コロナウィルスの感染拡大を機に、徐々に許容されるようになるまでの社会的な背景や経緯について説明しようと思います。

● コールセンター事業者の課題

コールセンターには、電話回線やパソコンの他に、CTIやCRMシステムなどが必須ですが、何よりも大切なのは「ヒト」です。「ヒト」がいなければ、コールセンターの運営はできません。将来、電話オペレーターの仕事がAIにとって代わられるという話がありますが、それがどれくらい未来の話なのか、あるいは本当に実現するのかは誰にもわかりません。しかし、少なくとも、現時点では「ヒト」がコールセンター運営に欠かせないことは間違いありません。

少子高齢化による労働人口の減少を受けて、宅配業や介護職をはじめ多くの業種で人手不足が問題となっていますが、コールセンター業界も恒常的に人手不足の状態が続いています。

しかし、他の業界と同じように、デフレ圧力の強い日本社会にあって、スタッフの給与を極端に上げて人材を確保するわけにはいきません。人件費の上昇はサービス提供料金にそのまま上乗せされることになりますが、顧客企業はそれを受け入れてはくれないからです。



● 拠点戦略はコールセンター事業者にとって最重要なもの

そこで、コールセンターをどこに設置するのかが、とても重要になります。通常、コールセンターの箱が大きければ規模の経済が働きますので、できる限り大きな建物を用意したいとコールセンター事業者は考えます。

コンビニや飲食チェーンの出店は、「集客の最大化」と「配送の効率化」が指標になりますが、コールセンターの立地は「不動産のコスト」と「人材の確保のしやすさ」のバランスで決まります。

東京の夜景

大規模コールセンターの開設費用を抑えるためには、少し不便なところに建つ安い不動産が魅力的だと思うかもしれません。しかし、人が集まらない立地で大きな箱を用意すると求人広告のコストがかさみます。逆に、人気のエリアや駅近のほうが働き手は集まりますが、不動産の費用がかさみます。そして、都心部であればあるほどに人件費も高くなります。

そこで、「不動産コスト」「人件費」というコスト面と、「人材確保のしやすさ」のトレードオフの関係にある要素を吟味しながらコールセンターの立地が決まります。

一方で、郊外や地方都市に小規模拠点(サテライト)を設置して、できるだけ働き手の近くにオフィスを構えようという動きがあります。それを、地方の自治体が支援している場合もあります。しかし、補助金や助成金がなければ成り立たないモデルは持続性や拡張性の面であまり期待はできません。

実際、小規模な拠点を多く設置することは、規模の経済が働かず、コールセンター事業者にとっては負担が増すことになります。サテライトの箱(不動産)を準備するだけではなく、各サテライトに管理者を配置しなければならないことも1つの要因です。中には、管理者を置かずに事務作業専用(電話対応なし)のサテライトにする場合もありますが、それでは電話オペレーターを確保することにはならず、コールセンター事業者の根本的な課題解決にはなりません。

そのように人材確保に知恵を絞らなければならない状況が続いたコールセンター業界に、突然、転機が訪れました。新型コロナウィルスの感染拡大です。



● BCPも、コールセンターの拠点戦略には欠かせない

実は、「どこに拠点を開設するべきか」という問いへの答えには、「コスト」と「働き手の確保」という視点だけではなく、「災害への対応」という視点も必要になります。

1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災の経験から、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)について語られることが多くなりました。

東海道新幹線の中央指令室は、東京にあるものと全く同じものを大阪にも用意してあるそうです。平時は東京の指令室から列車の運行を監視していますが、災害などで東京の指令室が機能しない場合には大阪の指令室を使用するそうです。平時は大阪の指令室は空っぽで誰もいません。

BCPへの取り組みとして、このように離れた場所に同じ仕組みを用意しておく「冗長化」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。

もちろん、10年に1度、起こるかどうかの大災害に備えて、そこまでの準備をできる企業は限られるでしょう。しかも、それだけの準備をしても、実際の災害時に役に立つ保障はありません。 それよりも、多くの企業にとっては、もっと頻度が高く小規模な災害に対するBCP(事業継続計画)を考えるほうが有益かもしれません。

地球温暖化の影響のせいなのか、近年、台風が大型化したり、豪雨の激しさが増しています。それによって、交通機関が麻痺することも珍しくありません。以前なら無理をしてでも運行していた鉄道が、事前に計画運休を発表することも増えました。

ターミナル駅の改札口

ただし、世の中の大多数が、電車やバスに乗って会社に向かう時代から、徐々にではありますが在宅勤務が広がる時代へと変わりつつあります。これまでであれば、台風や豪雨であれば、みんなが「今日は仕方ないね」と思えたでしょう。しかし、自宅でテレワークをする人が増えれば、話は変わってきます。

台風でも豪雨でも自宅で仕事をする人が多くいる、そのような世の中がやってきます。そして、自宅で仕事をする人が切羽詰まってテクニカルサポートやヘルプデスクのコールセンターに電話を架けたら、電話に誰もでない・・・という状況が起こり得ます。交通機関の運休で、電話オペレーターが都心にあるコールセンターに出社できないからです。

そのような問題を解決できるのは、コールセンターのテレワーク化、つまり、在宅コールセンターの実現です。

● コールセンター・テレワーク化の社会的な意義

2020年、突如として、私たちの社会生活が一変しました。新型コロナウィルスの感染拡大によるものです。

若くて一人暮らしの人は良いのですが、自身が高齢であったり持病があったり、あるいはそのような状況の家族と同居している場合には、職場での感染が気になるはずですし、在宅での勤務を希望する人もいるでしょう。

逆に、自宅では仕事ができないから出社したいという人もいます。ですから、今までどおりにオフィスで働くことと、自宅勤務のどちらの選択肢もあることが大事だと思います。

サービス業では、ES(従業員満足)あってのCS(顧客満足)と言いますが、テレワークで働き手の満足度が上がれば、顧客企業にとってもプラスになるはずです。

ただし、コールセンター・テレワーク化のもたらす意義は、今現在コールセンターで働く人達に新しい選択肢を与えるだけではありません。これまで、いろいろな事情で働くことが出来なかった人達にも、働く機会を提供することができるのです。

例えば、子供を保育園に預けている間、高齢者をデイサービスに預けている間。いつ呼び出されるかわからないので遠くまで働きには出られないけれど、通勤の時間がなければ働ける人達がいます。

田舎の風景

交通の便が悪くて、都心部に出るのが大変な人もいます。通勤の時間の長さも問題ですが、肉体的な疲労の蓄積も問題です。あるいは、持病などで足が不自由な人がいます。そして、何らかの事情で、あまり外出したくない、人に顔を見られたくない人もいます。

コールセンターのテレワーク化は、そういう人達に新しい選択肢を提供することができるのです。

そもそも、電話とは、離れた人同士が移動することなくコミュニケーションをとるための道具なのですから、本来の役割を果たしているだけなのかもしれませんが。



● コールセンター・テレワーク化のハードルとは

人材確保の面でも、BCPの面でも、コールセンターのテレワーク化が大きな役割を果たすことは間違いなさそうですが、これまでコールセンターのテレワーク化が一般的になることはありませんでした。そこには、いくつかのハードルがあるからです。

よく、その障壁として言われているのが、「回線品質」「セキュリティの確保」「エスカレーション」「孤独感」などです。しかし、技術の進歩によって、これらの問題は解決されつつあります。自宅のインターネット回線は個人の契約によるものですが、光ファイバーインターネットを利用すれば回線品質に大きな問題はありません。また、電話オペレーターのパソコン画面を録画することでセキュリティの確保が担保されつつあります。加えて、自身で解決できない問い合わせには上長への携帯電話でのエスカレーションで対応が可能です。そして、上司や同僚とのチャットでのやり取りで孤独感は薄まります。

拒絶

しかし、どうしても乗り越えなければならない課題があります。 それは、「顧客企業の同意を得る」ということです。実は、それこそが、これまでコールセンターのテレワーク化が普及しなかった最大の障壁です。



● 顧客企業がコールセンターのテレワーク化を望む時代

コールセンター事業はサービス業です。サービス業は、顧客の希望を叶えるビジネスです。逆に言えば、顧客が望まないことはやってはなりません。

これまで、コールセンターのテレワーク化が普及しなかった原因は、顧客企業にとって大きなメリットがなかったからです。

アメリカでは、インドやフィリピンにコールセンター業務を丸ごとアウトソーシングするBPOが流行りましたが、そこには目に見える金銭的なメリットがありました。「人件費の安い国のオペレーターを活用するので、コールセンターの運営費が半分になります」と言われれば、飛びつく顧客もいるでしょう。

コールセンターのテレワーク化も、従来のセンター設備(建物)が不要になるので、その分のコストが削減されて低料金でサービス提供ができると訴求する人達もいます。それは、コールセンター事業者ではなく、在宅コールセンターを実現するための「システム提供事業者」のセールストークです。

しかし、現実的には、既存のコールセンター設備(建物)を残したままで、リモートでの「セキュリティの確保」のための設備投資が上乗せされるために、むしろサービス提供料金は高くなる可能性があります。金銭的なメリットがないのであれば、個人情報や取引情報の流出リスクが低い既存のセンターでの運用を、顧客企業が望むのは当然です。

しかし、新型コロナウィルスの感染拡大で流れは変わりました。

コールセンターは都心の立地が多く、通勤時に感染の可能性もあります。加えて都心部の高層ビルでは窓が開かないでの換気が難しい場合もあります。そして、何よりもコールセンターには電話オペレーターが多く在籍していますし、決して一人当たりのスペースが広いとは言えません。しかも、電話で顧客と話すのが仕事です。

新型コロナウィルスが登場した当初は、感染防止対策が不十分であったせいか、各国のコールセンターでクラスター(大規模な感染)が発生したというニュースが流れました。その後、各社が適切に感染防止対策を行ない、コールセンターでのクラスター発生を聞くことはなくなりましたが、リスクが100%なくなったわけではありません。

握手

企業にとっても、コールセンターで感染者が増えて業務に影響が出るのは避けたいところです。そこで、顧客企業の側から「コールセンターのテレワーク化」を要望する声が聞かれるようになりました。感染症の拡大は決して喜ばしいことではありませんが、ようやくコールセンターのテレワーク化にニーズが生まれたのかもしれません。



● コールセンター事業者がテレワーク化に本気になった理由

在宅コールセンターは、コールセンター事業者にとっての「人材確保」や「BCP」の観点から、そして、コールセンタースタッフにとっての「ワークライフバランス」の観点から、コールセンター運営方法の1つの選択肢として取り組むべきものです。

しかし、これまでは顧客企業に対してうまくメリットを示すことができず、広く普及することはありませんでした。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、顧客企業側からコールセンターのテレワーク化を要望する声が聞かれるようになりました。

そして、この機会を逃さないために、コールセンター事業者はコールセンターのテレワーク化に大きく動き出しました。

在宅コールセンターについての認知度を高めつつ、個人情報・顧客情報の漏洩を起こさないためのセキュリティの強化、顧客企業が受け入れられる料金水準への低廉化、従業員満足度の向上など、さまざまな課題に取組みながら、在宅コールセンターという仕組みを社会に定着させていくことがコールセンター事業者の果たすべき役割であることは間違いありません。


【大規模コールセンター、サテライト(小規模コールセンター・事務センター)、在宅コールセンターのイメージ図】

大規模コールセンター・小規模コールセンター・在宅コールセンター(テレワーク)のイメージ

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