ランチェスター戦略|マーケティング用語

ランチェスター戦略とは、第1次世界大戦の頃にイギリス人のランチェスターが戦争を有利に進めるために考えた「ランチェスターの法則」を、後に経営戦略・マーケティング戦略に転用したものです。

それでは、「ランチャスター戦略」のもとになった「ランチャスターの法則」とは、どういうものでしょうか。まずは、その「ランチェスターの法則」について説明します。

● ランチェスターの法則

ランチェスターの法則には、第1法則と第2法則があります。

【第1法則】 攻撃力=武器性能(質)× 兵士数(量)

第1法則は、刀や槍などの兵器を使う古代の戦いで成り立つもので、兵器に差がなければ、兵士数に比例して攻撃力が高まるというものです。

【第2法則】 攻撃力=武器性能(質)× 兵士数(量)× 兵士数(量)

第2法則は、銃のように、相手から離れた場所から攻撃できる武器を使った場合に成り立つ法則です。武器性能に差がなければ、攻撃力は兵士数の2乗に比例します。

それでは、第1法則と第2法則の「比例」と「2乗に比例」の違いは、どうして生まれるのでしょうか?

まずは、第1法則が成り立つ接近戦について考えてみます。 「A国100人」対「B国50人」の兵士数で戦うとします。接近戦では、まず、「A国50人」対「B国50人」が戦います。武器性能が同じであれば、お互い50人のうち25人が勝って25人が負けます。つまり、その時点で、「A国75人」対「B国25人」となります。

そして、次に「A国25人」対「B国25人」が戦います。 武器性能が同じであれば、お互い25人のうち、12~13人が勝って、12~13人が負けます。 そういうことを繰り返せば、必ず兵士数の多いほうが勝ちます。 ただし、接近戦では1対1での戦いとなるため、兵士数に比例した攻撃力の違いにしかなりません。

次に、第2法則が成り立つ長距離戦だとします。 敵と味方が、十分に離れた距離から機関銃で撃ち合う戦いを考えます。各陣営は、等間隔で機関銃を持った兵士を配置するとしましょう。

A国は100人の兵士を、B国は50人の兵士を配置して攻撃します。(兵士の数は2対1です。)

ここで、「B国の1人の兵士」を狙える「A国の兵士の数」は、100人(A国)÷50人(B国)=2です。つまり、A国は2人の兵士で、B国の1人の兵士を狙うことができます。 逆に、「A国の1人の兵士」を狙える「B国の兵士の数」は、50人(B国)÷100人(A国)=0.5です。つまり、B国は0.5人でしか、A国の1人を狙えないわけです。

この2(A国)と0.5(B国)では、4倍の違いあります。それは、兵士の数の違い(2倍)の2乗です。そのために、長距離戦においては、兵士数の2乗に比例して、戦闘力に違いが生まれると考えられます。

● ランチェスター戦略

その後、ランチェスターの法則は、経営戦略・マーケティング戦略に転用されることになりました。

強者(大手企業など)は、第2法則が活かせるように、長距離戦(銃を使う戦い)でマーケティング活動を行うことにより、有利に戦うことができます。例えば、マスメディアを活用することは強者の戦略です。逆に、弱者(中小企業・零細企業など)は、第2法則で強者にやられてしまわないように、接近戦に持ち込む必要があります。

それでも、第1法則が示すとおり、兵力数が少なくては負けてしまうわけですから、弱者は自分たちが兵士数で勝る状況を作り出さなくてはなりません。限られた範囲での戦いに持ち込み、兵力をそこに集中させることで、数的な優位を作ることが必要になります。

例えば、大手企業が手を出そうと思わないニッチな市場で戦ったり、あるいは、エリアを限定して経営資源を集中するなどです。

しかし、今日のようにインターネットがあらゆる場面で大きな影響を与える時代にあっては、強者であっても、弱者であっても、第2法則が適用される世界で戦うこと(長距離戦)を意識せざるをえません。つまり、ネットにおけるランチェスター戦略を考える時代に突入していると言えます。

ネット上での戦いで後手に回れば、競合他者に圧倒的な戦闘力でやられてしまうかもしれません。それでは、逆に、ネット上で競合に対して優位に立つにはどうすれば良いのでしょうか。

それは、自分たちがターゲットとする顧客層を分解(細分化)して、その中のどこにフォーカスするのかを定めた上で、そのセグメントへの訴求に経営資源を集中することです。

例えば、グーグル広告で特定のキーワードに絞って他社よりもネット広告の出稿頻度を高める、あるいは、SEO対策でニッチなキーワードでの上位表示を狙うなど(思ったとおりにできるかどうかという問題はあります)が、これからの戦略として不可欠なのではないでしょうか。