カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience:CX)とは「商品やサービスに対する顧客としての一連の体験(顧客体験)」のことです。
その「顧客体験」が指す体験とは、顧客が商品を購入する際の経験だけではなく、商品の購入前から購入後のカスタマーサポートまでの一連の顧客としての体験全体を対象とします。
そして、その商品やサービスによる顧客の直接的な体験だけではなくて、間接的な体験までも対象とします。
つまり、商品・サービスだけではなく、また、その商品・サービスからの直接的な体験だけでもなく、もっと大きな範囲での一連の体験を通して、顧客は企業や商品・サービスへの評価を決めるという考えです。
例えば、小旅行でどの旅館に泊まろうかと電話で問い合わせた際の対応がすごく良かったり、商品購入後の思いがけないフォローがとても親切であることなどでも、カスタマーエクスペリエンスはより評価の高いものになります。
ただし、企業側の押しつけや思い込みではなく、顧客が感じて受け取ったものがカスタマーエクスペリエンスとなることを忘れてはなりません。
そして、このようなカスタマーエクスペリエンスこそが大切だとされるまでには、次のような長い歴史があります。
(1)モノ不足の時代
戦後しばらく続いたモノ不足の時代には、「良いモノ」を作りさえすれば、モノは飛ぶように売れました。
(2)モノが溢れているけれども、情報不足の時代
その後、モノやサ―ビスが溢れるようになりました。そんな時代の中で、顧客が望まない多機能な製品を「高付加価値製品」だと思い込んで市場に投入した企業は、機能を絞り込んだシンプルで低価格な競合製品に競り負けます。その結果、多くの商品はコモディティ化して、商品・サービス自体では競合他社と差別化を図ることが難しくなります。
そのような閉塞感を打破するために、「ブランド力」という目に見えない力によって差別化を図ろうとする企業も見られました。まだ、顧客よりも企業が圧倒的な情報強者であった当時。ブランドとは、企業側の思いで作り上げるこができるものだったのかもしれません。
(3)モノも情報も溢れている時代
インターネットの出現により、企業だけが情報「強者」で顧客が情報「弱者」である時代は終わり、顧客が企業と対等に情報を持つ時代になりました。
ネット上の口コミによって商品・サービスの顧客視点での情報が溢れるようになりましたが、顧客のみに企業イメージを構築されてしまわないように、企業側もより積極的に情報発信に励むようになりました。その結果、さらに情報が溢れる世の中になりました。
その流れの中で、モノやサービスだけではなく、また、単に企業が創り上げたブランドイメージでもない、「経験価値」がマーケティングの主戦場となる時代がやってきました。
代表的な事例として、東京ディズニーランドでの「夢のような体験」や、外資系の高級ホテルのホスピタリティ(おもてなし)あふれる「顧客対応」、スターバックスが提供する「家でもなく職場でもない第3の空間」などの経験価値がネットを通じて多くの顧客に共有されることになりました。
しかし、その感動も「当然のこと」になってしまう時がやってきます。
そのような時代の変遷を経てのカスタマーエクスペリエンスとは、商品・サービスというコアの部分~それに付随する情報提供~ブランディング~経験価値~それ以上のプラスアルファを駆使して、その企業(商品・サービス)を知ってからお金を払った後までのトータルな時間軸の中で顧客に満足してもらい、競合他社と差別化しようとするものです。
それは、モノが溢れることで商品そのものでは競合他社との差別化が難しい状況であるにも関わらず、情報が溢れることにより顧客の要求水準が高くなった時代における最後の差別化要素なのかもしれません。
それだけ、カスタマーエクスペリエンスを重視する現代は、企業にとってとても大変な時代なのです。