アンカリング効果|経済行動の心理学

刷り込み、先入観、固定観念。人間の脳は、いろんなバイアスの影響を受けるものです。

初めて見た相手の第一印象だけで、その人の性格・特質・能力などの判断までもが引きずられてしまう「初頭効果」「ハロー効果」「ホーン効果」などが、心理学の用語として有名です。

同様に、アンカリング効果も、「最初に見た情報」が自身の判断に大きな影響を与えるというものです。ただし、アンカリング効果は、人間の経済行動における用語です。

例えば、20年ぶりに炊飯器を買い替えようと考えている女性 「御飯 多希子さん」がいたとします。

20年前、多希子さんが炊飯器を買った頃には、「ご飯が炊ければそれで良い」という思いで、シンプルで安価な(確か8,000円くらいだった?)炊飯器を東京・秋葉原の電気街で購入しました。

それから、月日は流れ、さすがに新しい炊飯器に買い替えようと考えた多希子さんは、近所の家電量販店に出かけるのも億劫なので、スマホを使って いつものネット通販サイトで「炊飯器」を検索してみました。

すると、検索結果の一番上位に、「おススメ!」として、某国産メーカーの28,000円の ”真っ赤な” 炊飯器が表示されました。ちなみに、メーカー希望小売価格は 35,000円だそうです。多希子さんは、その差額を見て、「家電量販店に出かけなくても、ネットで安く買えるんだな」と感じました。

多希子さんは、それまで、今どきの炊飯器がどれくらいの金額なのかを知りませんでしたが、「国産メーカーだと安心だし、そこそこの機能のものなら、これくらいの値段なんだろうな」と思いました。他のサイトを見て回ったわけでもないのに・・・です。

もちろん、他の炊飯器も調べてみました。売れ筋ベスト10などの商品をサイトで見て回りました。

しかし、最初にメーカー小売価格 35,000円で、実売価格28,000円の炊飯器を見てしまった多希子さんは、5,000円前後の炊飯器だと安物ですぐに壊れてしまうのではないかと不安を覚えます。

逆に、10万円を超える炊飯器を見て、炊飯器に10万円も支払うなんて贅沢だし馬鹿げていると感じました。世の中で、高級な炊飯器が人気であることは、ネットやテレビの情報で少しくらいは知っていたにも関わらず・・・。

そして、いろいろと見て回った結果、最初に見た 28,000円の炊飯器の色違いで、白色の炊飯器を購入することにしました。

後日、自宅に炊飯器が届いた多希子さんは、白いご飯を炊いて食べました。そして、こう思いました。

「やっぱり、28,000円(本当は35,000円)の炊飯器で炊くと、普通のお米でもすごく美味しいわ。手ごろな値段で良いモノが買えて、とても満足」 と。

このように、購買時に、最初に見た商品・価格などが、その人の購買行動に大きな影響を与えることをアンカリング効果と呼びます。アンカー(anchor)は、船の錨(いかり)のことですが、「錨を下ろす」という動詞でもあります。つまり、アンカリングとは、船の錨を下ろすことです。

そして、アンカリング効果とは、最初に目にした情報に対して心理的な錨(いかり)を下ろしてしまって、それが基準となり、そこからどれくらい乖離しているかという判断が働いてしまうことです。