感情労働|コールセンターの心理学

「感情労働」は、米国の社会学者であるアーリー・ラッセル・ホックシールド(Arlie Russell Hochschild)<1940年生まれ・女性>が提唱した言葉です。

感情労働とは、頭脳や肉体だけではなくて、感情が労働の重要な要素であり、あるべき姿として「適切な感情」を表現することが強いられる労働のことです。そのため、感情労働には感情の抑制・緊張・忍耐などが必要とされます。

敢えて、単純な言い方をすれば、肉体に負担をかける労働が肉体労働であり、頭に負担をかける労働が頭脳労働、そして、感情に負担をかけるのが感情労働です。

ただし、肉体労働と頭脳労働は対比されるものですが、感情労働の場合は少し違います。それは、感情労働の多くが「肉体労働、かつ、感情労働」であったり、「頭脳労働、かつ、感情労働」であるように、「肉体労働」「頭脳労働」「感情労働」が同等に(同じレイヤーで)分類されるものではないからです。

また、感情労働に該当する職種としては、旅客機の客室乗務員、看護師、介護士、コールセンターの電話オペレーター、官公庁や企業の顧客対応部門などが挙げられます。

感情労働に従事する労働者は、相手の一方的な誤解や思い込み、その瞬間の気分などによる理不尽な主張がなされたとしても(いわゆるクレーマー)、自身の感情を抑制して、理想通りに振る舞わなければなりません。つまり、顧客に対して「心の商品化」が要求されるのです。


尚、心の商品化については、以下のURLをご参照ください。
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/04/pdf/036-039.pdf
ホックシールド
『管理される心─感情が商品になるとき』
【労働社会学・産業社会学・教育社会学】 石川 准

以下は、その中からのコールセンターに関する記述の抜粋です。



感情労働研究の未開拓の分野

感情労働研究には未開拓の分野が多くある。コールセンター業務などもその一例であろう。ホックシールドは飛行機の乗客は「乗客は,家に来ている本物の友人やお客とは違って,苛々するときはその怒りを表出する権利が当然あると思っている。チケットと一緒に,暗黙のうちに了解されたその権利を購入しているのだから。」[Hochschild1982=2000:pp.126-127]と書いたが,飛行機の乗客とは比較にならないレベルのクレームやいらだちや怒りを接客担当にぶつけるのはコールセンターに電話をかける客である。とりわけ問題が解決しないとき,問題の共有ができないとき,要望への対応の約束が得られないとき,コールセンターの担当者は感情的攻撃にさらされる可能性が高い。担当者はそのようなときでも感情労働を維持しなければならず,無力感ややり場のない怒りや失意,会社や開発部門やユーザへの憤りなどを封じ込めなければならない。

客室乗務員などの通常の接客業務の感情労働が,ない感情を作り出すことだとすれば,コールセンターなどの苦情や問題解決要求の受付業務においては,あってはいけない負の感情を静めつつ,あるべき正の感情を作り出すという感情労働が求められる。と同時に聞き取りや問題の絞り込みなどの問題解決のためのスキルが求められる。通常の接客業務に比べコールセンターの感情労働は,はるかに難易度が高いといえる。

このような業務特性に注目すれば,感情労働概念を用いてコールセンター業務におけるストレスマネージメントを調査する研究がもっと実施されてもよいと思うのだが,いまのところ小規模な研究が散見される程度にとどまっている。


コールセンターに関する用語集

コールセンターの構築・運営に関連する用語の説明をしています。